更新:2025.7.11 作成:2025.7.11
ロングトレイルとは、自然の中に設定された長距離の歩行ルートのこと。一般的には数十キロ〜数百キロにも及び、数日〜数週間かけて歩くことを想定したルートが多くなっています。登山道だけでなく、林道・古道・里山の道などをつなぎながら、“山旅”のような感覚で自然と文化を味わえるのが特徴です。
欧米では「PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)」や「AT(アパラチアン・トレイル)」が有名ですが、日本でも近年「信越トレイル」や「熊野古道」「みちのく潮風トレイル」などが整備され、人気が高まっています。
登山が「山頂を目指すこと」に重きを置くのに対し、ロングトレイルは「山域を丸ごと楽しむ」「歩くことそのものを楽しむ」スタイルです。必ずしもピークハント(頂上制覇)を目的とせず、山並みの稜線をたどったり、谷を抜けて村に泊まったりと、より“旅”的な感覚が強くなります。
また、1日の歩行距離も無理のない設定が多く、装備も軽めで済むケースも。山小屋や避難小屋、キャンプ場を利用しながら、ゆったりと自然の移り変わりを感じる旅として、多くのハイカーを魅了しています。
「でも、ロングトレイルってハードル高そう…」と思うかもしれません。でも実は、初心者でも無理なく歩けるコースは全国に存在します。特に今回紹介するような“関東発・2泊3日程度で歩けるルート”なら、アクセスも良く、テントを持たずに山小屋や避難小屋を活用できるため、装備のハードルも下がります。
大事なのは、事前のルート調査・天気の確認・装備の見直しといった基本的な準備。それさえしっかりすれば、登山初心者でもロングトレイルの世界を十分楽しむことができます。次の章からは、そんな“はじめの一歩”にぴったりな3つのトレイルを詳しくご紹介します。
奥秩父主脈縦走路は、東京都最高峰・雲取山(2,017m)を起点に、飛竜山、笠取山、甲武信ヶ岳(2,475m)までをつなぐ長大な稜線ルート。深い森に抱かれた静かな山旅が楽しめる一方で、公共交通機関でのアクセスも比較的良く、“ロングトレイル初挑戦”にぴったりのコースです。
雲取山へは奥多摩駅からバスと登山道を経てアクセス可能。そこから秩父・山梨方面へと抜けていくルートは、歩きごたえがありながらも、ルート上には避難小屋が点在しているため、テント泊でなくても縦走が可能です。
この縦走路は、登山道自体は明瞭ですが、距離と標高差があるため「中級者向け」とされることが多いです。ただし、天候や体力に合わせてエスケープルートを使える場所が多く、無理せず計画を立てれば初心者でも十分チャレンジ可能です。
特に初心者にとって嬉しいのが、雲取山荘や笠取小屋、甲武信小屋などの避難小屋・山小屋の存在。水場も適度にあり、食料を自炊するかどうかで装備を軽くすることもできます。1泊目は雲取山荘、2泊目は甲武信小屋など、無理のないペースで歩くモデルプランが立てやすいのも魅力です。
このルートの最大の魅力は、「静けさ」と「縦走の達成感」。南アルプスや北アルプスに比べると訪れる人が少ないため、静寂の中で自然と向き合う贅沢な時間を過ごすことができます。深い樹林帯、苔むした沢筋、時折見える富士山や甲府盆地の展望など、風景のバリエーションも豊富。
甲武信ヶ岳まで歩き切ったときの充実感は格別で、ロングトレイルならではの“線で歩く旅”の魅力をしっかり味わえるルートです。復路は川端下や西沢渓谷方面へ下山し、バスで帰るルートが整備されているのも初心者にとって安心材料となります。
那須岳といえば関東からのアクセスがよく、茶臼岳を中心に観光・登山客で賑わう人気エリアですが、その奥に広がる甲子山塊(かっしさんかい)は、ぐっと静けさを増すエリア。那須岳の南東部に位置する甲子山・大白森・三本槍岳などをつなぐルートは、程よいアップダウンと整った登山道が特徴で、静かに縦走を楽しみたい人におすすめです。
スタート地点は白河市の甲子温泉。アクセスにはやや工夫が必要ですが、新幹線と路線バスを組み合わせれば週末でも十分到達可能。温泉に前泊し、余裕を持って山に入るスタイルも人気です。
この縦走ルートのハイライトは、三本槍岳から茶臼岳へと続く稜線歩き。三本槍岳は那須連峰の最高峰(1,917m)で、展望が良く、快晴時には磐梯山や会津の山々を一望できます。そこから流石山・朝日岳を経て、ロープウェイ山頂駅近くの茶臼岳まで続くコースは、歩きごたえと景色のバランスが非常に良好です。
避難小屋は少ないため、山中1泊のスタイルよりは“1日+α”での分割や、那須湯本側の宿泊施設を利用した周遊型プランが現実的です。整備された登山道が多く、迷いやすいポイントも少ないため、初心者にも安心して歩けます。
このルートのもうひとつの魅力は、山旅の前後に味わえる東北の名湯。スタート地点の甲子温泉「大黒屋」や、ゴール地点の那須湯本温泉には、登山の疲れを癒してくれる源泉かけ流しの宿が点在しています。
また、那須岳周辺は紅葉の名所としても有名で、秋には赤や黄に染まる稜線がまるで絵画のよう。ロングトレイルとしての達成感に加え、静けさと癒しが同居した“贅沢な時間”を味わえる穴場的ルートです。
中央分水嶺トレイルは、長野県中部に位置する霧ヶ峰・美ヶ原の高原地帯を縦走するルートで、アルプスの大展望と広大な草原が魅力のコースです。標高はおおむね1,800〜2,000m前後で、傾斜が緩やかな区間が多く、体力に不安のある人でも安心して歩けるのが特徴。
特に、霧ヶ峰の八島湿原から美ヶ原の王ヶ頭を目指す区間は、アップダウンが少なく、高原の風景と空の広がりを楽しみながらのんびりと縦走が可能。展望は抜群で、晴れた日には八ヶ岳・中央アルプス・北アルプスまで見渡せる“天空の散歩道”です。
このルートが初心者におすすめな理由のひとつが、「宿泊施設の選択肢が豊富」なこと。霧ヶ峰や美ヶ原には山小屋だけでなく、ビジターセンター併設の宿泊施設や高原ホテルなども整備されており、テント装備がなくても快適に過ごせます。
また、スタート・ゴールともに路線バスでアクセス可能なため、公共交通を使った山旅がしやすいのもポイント。日程に余裕がある場合は、上諏訪や松本に前後泊を組み合わせて、温泉やグルメとセットで楽しむプランもおすすめです。
ロングトレイルというと「森林帯の中を黙々と歩く」イメージを持たれがちですが、この中央分水嶺トレイルはその真逆。開放感のある稜線と草原、そしてどこまでも続く空が、歩くことそのものの楽しさを思い出させてくれます。
途中には、牛が放牧されている牧場地帯や、高原植物が咲く湿原など、目にも楽しい風景が続きます。疲れたときには木道のベンチでひと休み。そんな“余白のある山旅”が楽しめるのも、このルートならではの魅力です。
ロングトレイルを“週末+1日”で楽しむには、限られた時間で最大限の充実度を得るために、事前の計画がとても重要です。特に大事なのが、登山口・下山口までの公共交通手段の確認と、宿泊地の確保。山小屋や避難小屋は定員が限られていることもあるため、早めの予約や情報収集が必要です。
また、体力や天候の状況によって計画通りに進めない可能性もあるため、途中で下山できるエスケープルート(林道や分岐)も確認しておきましょう。無理に全行程を完遂するのではなく、「中断も選択肢」として視野に入れておくことが、山旅を安全に楽しむコツです。
ロングトレイルでは1日あたりの行動時間が長くなるため、装備の軽量化は必須。ただし、軽さを追求しすぎて安全性や快適性を犠牲にしてしまうと、本末転倒です。雨具や防寒着、ヘッドライト、非常食、水の確保手段(浄水器や予備ボトル)など、“最低限の安心”を担保しながら無駄を省くのが理想です。
ザックの容量としては30〜40L程度が目安。必要に応じて、行動食や地図アプリ、紙の地図、バッテリーなどの小物類も整理して持っておくと、急なトラブル時にも対応できます。
初めてのロングトレイルこそ、「無理せず・焦らず・楽しんで」が大原則。1日の歩行距離は10〜15km、累積標高差は1,000m以内を目安にして、自分のペースで歩くことを心がけましょう。
そして何より大切なのは、「また歩きたい」と思える旅にすること。眺めのいいところで長めの休憩を取ったり、山小屋での出会いや会話を楽しんだりと、“歩くこと”だけに縛られない山旅の余白を大切にしてください。そうした体験が、次の一歩につながるはずです。
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